民間人校長の教育改革、奮闘記

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リペアショップ鹿児島店の坂元です。
今回は、「民間人校長の教育改革、奮闘記」です。

前回、国際派日本人養成講座の伊勢雅臣が、おやじたちの教育改革を紹介しましたが、今回はその続編で民間人校長の教育改革、奮闘記を紹介します。



国際派日本人養成講座の伊勢雅臣です。

 前号は異常な教育を正そうと学校の外から働きかけたオヤジたちの活動を紹介しましたが、今回は、民間人校長として、学校に入り込んだ方の奮闘記です。そこは一般社会人の常識がまったく通じない「異界」でした。

■■ Japan On the Globe ■■ 国際派日本人養成講座 ■■

教育再生 第2部 密室の中の独裁者

(6)民間人校長、「異界」に挑戦

 民間人校長の熱意が、「異界」の教師たちを変えていった。
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■1.「異界」での第一声■

 ボストンで投資ファンド会社の社長を勤めていた国際派ビジネスマンの大島謙氏が、三重県立白子高校の校長として赴任したのは、平成15(2003)年4月1日だった。はじめての職員会議に出席する。

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 しかし、その姿たるや、十年一日のごときもので、まるでセピア色の映画を見ているような感じだった。議長がいて、それがみんな各先生たちの輪番である。会議の進め方も、今まで何年もやってきたから、十年一日ほとんど同じなのだろう。

「この件についてお諮(はかり)りください」と言って、意見を聞く、「これに対して表決をいたします、賛成の方は挙手を願います」と言う。しかし、発言する教師はだいたい決まっている。ほとんどの教師たちは黙って下を向き、言われれば挙手をする。中には居眠りをしている者もいる。

 ・・・このような古びたやり方では、物事を新しくつくりだしていくことなど絶対にできないと私は思った。私は思わず、「そんな場じゃないでしょう?」と言った。
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 これが学校という「異界」に乗り込んだ民間人校長の第一声だった。


■2.新しいタイプの日本人を育てる■

 大島氏はボストンで東芝系の投資ファンド会社の社長だった。そして日本で新たなベンチャー企業投資の事業を展開しようと準備していた。アメリカのパートナー会社や東芝の了解を得て、二百億円くらいのファンドを作ろうという構想が固まりつつあった。

 しかし、いよいよ最終合意のために日本に行こうとしていた矢先に、9・11事件が起こったのだった。会議はキャンセルされ、アメリカから一歩も出られなくなった。日米で不況感が急速に広がり、挽回しようと半年間かけたが、だめだった。

 日本での転職先を探している時に、知人からのメールで知ったのが、「民間人校長」公募の話だった。大島氏は常々、海外から日本を見て感じていた事に取り組むチャンスだと思った。ちょうど三重県からの募集を見つけ、応募した。

「失敗をしない優等生ばかり育てようとした戦後教育から、リスクへの挑戦もできる新しいタイプの日本人を育てることが急務」と「応募の動機」を書いた。65人の応募者で合格者はわずか2名。その一人が大島氏だった。


■3.「これでは共産主義国家と同じではないか」■

 次に驚いたのが、組合の職場委員会である。ご挨拶に伺いたいという申し入れがあり、いつでもどうぞと答えると、4、5人がぞろぞろとやってきた。なにやら団体交渉の雰囲気である。

 彼らは組合としていくつかの要求を提示した。その一つに民間校長が臨む初の入学式で、テレビ局が取材に来る事になっていたのだが、国旗・国歌の時に立たない教師がいても、そこを撮らないようにテレビ局に申し入れしてくれ、と言うのがあった。これでは共産主義国家と同じではないか、とあきれた大島校長は言った。

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 それは希望としては言えますが、私のほうから、取材規制みたいなことは言えません。それとも、みなさん取材されたら困るのですか。困るような事をしているんですか。
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 しばらくの沈黙の後、今度は、一人が別の要求を切り出した。「組合として勝ち取った権利は、組合員の権利だから、非組合員には渡したくない」と言うのである。

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 組合員だろうと非組合員だろうと同じ教師でしょう。組合員じゃないから与えないなんて言ったら、それこそ差別ですよ。
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 そこで、また沈黙だった。「異界」の住人から見れば、この「侵入者」の言うことは理解を超えていたのだろう。


■4.トイレ・ロックアウト事件■

 一学期が始まって、まもなくの事である。放課後、学校の中を見回っていると、校舎の一角の洋式トイレの方だけ、中から鍵がかかっていた。おかしいな、と思って、そこの掃除監督の女の先生を呼び出した。トイレの掃除は近くのクラスに割り振られて、毎日の掃除当番が決まっているのだが、それを監督する先生である。

 聞いてみると、ロックアウトしたのは、その先生だと言う。なぜそんな事をしたのか、と大島校長が聞くと、憤懣やる方のない表情で「生徒がいつも煙草を吸ったり、ある時は汚物がつまってあふれていました。そういう苦労を校長先生は分からないでしょう。校長先生もこれから見張りに立ってください」と言う。

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 何ですか、それは。じゃあ、校長がやらなきゃ、あなたたちはやらないのですか。第一あそこをロックアウトしたのはあなたがやったのですか。あなたが中に入って鍵をかけて、上から這い出したんですか。
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「いいえ」と言うので、「じゃあ生徒にやらせたんですか。女子トイレは女子生徒にやらせたんですね」。答えはない。

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 そういうこと自体がおかしいんじゃない? ここの施設の管理者は校長なのだから、少なくともそういう事をやる前に報告をしてください。
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 その先生は憤慨して、席を立ち、部屋を出て行ってしまった。生徒たちがトイレを汚すので、女生徒にロックアウトさせ、管理者に報告もしない。それをおかしいと指摘すると、怒って席を立ってしまう。学校という「異界」の常識がいかに世間とかけ離れているか、大島校長は実感した。


■5.トイレ修理でも議論■

 それからしばらくして、技術員(昔でいう用務員)から突然、電話がきた。校舎のあるブロックだけ耐震工事がされ、トイレも綺麗にされていたのだが、そこがひどく汚されているという。煙草の吸い殻が捨ててあったり、床には煙草の火をもみ消した焼けこげがあり、さらには壁も蹴飛ばされて破れている所があるという。

 大島校長は、これは一度きっちり直さないといけないと思った。1週間ほどトイレを封鎖して、技術員さんを中心に専門業者も入れて修理して貰うことにした。このプロジェクトを職員室の朝礼で説明すると、こんな事にも反対する教師が出てきた。トイレをロックアウトした女教師である。

「膀胱炎の生徒がいます。そういう生徒は困るでしょう。封鎖はしなくとも、通常の掃除を頑張ればできます」と言う。

__________
 通常の掃除は今までやっていたでしょう。それであの状態になったんです、だからわれわれは、これではまずいと思って、やるんです。膀胱炎の生徒も一人や二人はいるかもしれない。事前に生徒にもきちんと説明します。もし生徒の中で反論があったら、それも聞きます。その時の個別の対応も考えます。
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 これでも納得してもらえなかった。そのあとも、この教師はメールでいろいろな事を言ってきたが、毎回説明しながら、大島校長は絶望的な気分になった。なんて常識が通用しない世界なんだろう。自分が担当のトイレが汚されると、怒って勝手にロックアウトしてしまい、全校方針として根本的に解決しようとすると、一人二人の事情を持ち出して反対する。


■6.汚れた環境は人間の心を暗くし荒(すさ)ませる■

 最後には、これは他の全員が納得したことだから、あなただけが反対でもやります、と言った。技術員さんは張り切って、費用を節約しようと床や壁の貼り替えまで自分で行って、ピカピカに仕上げてくれた。

「汚れた環境は人間の心を暗くし荒(すさ)ませる。継続的な美化活動に取り組むことにより、物を大事にする心を生徒たちに示す」と大島校長は方針の中で述べていた。

 アメリカに「破れ窓理論」というのがある。破れた窓を放っておくと、また次の窓が破られ、それが徐々に拡大し、ついに荒廃の極みに達するというものである。

 大島校長は着任当初、学校が本当に汚いと思った。建物は古くとも、きちんと掃除をし、メンテナンスをすれば、それなりの美しさを保てる。しかし、白子高校はゴミが散らかり、荒廃した感じが漂っていた。だからこそ、大島校長は、まずトイレの徹底的な美化に、こだわったのである。

 この方針は少しずつ、生徒たちを変えていった。その後、サッカー部員が他校に行って練習試合をした時に、ロッカーだけでなくトイレまで掃除して、その様子を見た他校の保護者から「立派な生徒たちですね」と感激のメールが寄せられるまでになった。


■7.「十分間読書」開始への苦闘■

 もう一つ、大島校長が始めようとしたのが、「朝の十分間読書」、通称、朝読(あさどく)である。生徒への教育効果がめざましく、「朝の読書が奇跡を呼んだ」という実践記録書も出版されているのに、三重県74校の高校で実践していたのは、わずか10校程度であるという。たかだか10分の読書を生徒にさせるのに、「異界」ではどれほどの覚悟がいるかを、大島校長は体験することになる。

 1学期が始まってまもない5月の職員会議で、国語科の教師たちによる朝読委員会から、「朝の十分間読書」が提案された。しかし、「大変なことはやりたくない」という一部の「抵抗勢力」の声に押し切られてしまった。その後、朝読委員会のメンバーを他校の成功事例の調査に行かせたり、ねばり強く説得してやる気を保持させ、何度目かの職員会議でやっと「試行」にこぎつけたのが、初年度も終わりに近い2月だった。

 一週間後に、教師たちの意見が寄せられた。「先週、一年生のクラスに参加。一人を除いて他の全員が一生懸命読書をしているのに大変嬉しくなった」など、効果を実感する声がいくつも寄せられた。しかし朝読のために昼休みが5分短くなったのに不満を寄せてくる教師もまだいた。

 それでも、最初の一年が過ぎようとする頃には、「最近、自分も含めて教師たちが変わってきたと感じます」というメールを寄越したり、「生徒指導は全教師一丸とならなければ!」などと職員会議で発言する教師が出てきた。サイレント・マジョリティが変わり始めたのである。


■8.改革のための音楽科新設■

 教師たちに改革意欲を持たせ、生徒たちに目的意識を持たせるにはどうしたら良いか、そのために白子高校が持っている潜在力は何だろうか、と考えていて、大島校長が行き着いたのがブラスバンド部だった。県大会や東海大会で常に活躍し、マナーの良さにも定評があった。彼らに学校を代表しているという意識を持たせれば、他の生徒たちにも良い影響があるだろう。

 そこで音楽系の新学科を作れないか、と考えた。普通の音楽科ではピアノとかバイオリンと言った単一楽器を教える。そういうプロ養成のための個人英才教育ではなく、様々な楽器を皆で一緒に演奏する吹奏楽なら、音楽を通じた情操教育が図れるのではないか、というのである。

 この案を職員会議に持ち出すと、反応はひどく冷たいものだった。三重県には「音楽」と名のつく学科もコースもなかった。そんな学科が認可されるとしたら、まずは有名進学校であって、「白子高校でできるわけがない」という意識があった。

 それでも7人の教師を選んで根気よく検討して貰い、年度末には提案書をまとめて、県教育委員会に上申した。県教委内の審議の過程で、「進学対策は十分か?」「定員四十名確保できる保証は?」などと矢継ぎ早の質問が来る。

 なかには「校舎改修の見積もりを数日中に」という要求まで来て、事務方を総動員し、懇意の建設業者に無理矢理頼み込んで200ページを超える工事見積書を作成し、県教委を驚かせた事もあった。


■9.職員朝礼での拍手■

 県教委での審議の過程で、大島校長も堪忍袋の緒が切れかかって、喧嘩腰でねじ込んだ事もあった。そこまで強硬に思いを伝えないと、彼らも本気にならない、という計算もあった。

 5月末には、再作成した提案書を県教委に提出した。この頃には、大島校長は内心ではあきらめかけていた。県議会がとっくに終わっても、県教委からは何の連絡もなかった。もはや運を天に任せるしかないと、毎朝、家を出る前に神様に祈るのが日課となった。

 ある日の夕方、県教委から電話が来た。認可内示の知らせだった。翌朝一番に県教委にお礼回りに行くと、出会う人がみな笑顔で祝福の声をかけてくれた。

 さらに職員朝礼で認可がおりた事を伝えると、思いがけず拍手が起こった。意外ではあったが、とても嬉しいことであった。

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 われわれは、この新コースだけをよくすればいいとは、もともと思っていない。あくまで・・・普通科全体を含めた学校全体の活性化が目標である。そして、新たな「白子高校ブランド」を創生し、「仲間づくりと夢の語り場」にすることが最終ゴールだ。そのために、新たに全校で取り組める行事を、ということで、新コース生が2年生の時、全校生徒による共同制作の「創作ミュージカル」をやろうと、夢はさらに広がっている。[1,p132]
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 大島校長の挑戦はまだまだ続く。その改革への熱意こそが、人間教育の原点なのではないか。教育とは、大人が次世代の青少年たちの心に志の火を灯すことだろう。とすれば、まず教育者自身の心に、火が灯っていなければならない。

 そして、志の火は一人の教師から他の教師たちへと、燃え移るものである。それはさらに何百人の生徒の心を燃え立たせ、その一生を実り豊かな、幸福なものに変えていく。教育再建とは、結局、これを地道に続けていく事でしか、実現しないだろう。「民間人校長」に限らず、既存の学校教師の中からでも、一人でも多くの教育者の奮起を望みたい。
(文責:伊勢雅臣)

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